魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
蓮様からの許可が下り、胸を張ってそんなセリフを言うことができた。
草下さんは「かしこまりました」と頭を下げ、葵様の手を引く。しかし、数歩進んだところで葵様を抱き上げ、小さい背中を甘やかすようにして森の中へ消えていった。
それを眺めていた蓮様に、自分が着ていたジャケットを脱いでからそっとかける。瞬間、びくりと肩を震わせた彼は、眉をひそめて私を見た。
「なに」
「え? ええと、このままでは風邪を引かれてしまうので……」
川から上がった蓮様が、ジャケットを即座に脱いで私に押し戻す。渋々受け取ると、その代わりとも言うべきか、彼が私の腕を掴んで川から引き上げた。
「あの、蓮様……」
今さっきまで優しかったのに、何だか急に不機嫌になってしまった気がする。
葵様の手前、穏やかに振舞っていただけで、本当はすごく痛かったんだろうか。やはり怒られてしまうんだろうか。
はらはらと彼の顔色を窺っていると、蓮様が大きなため息をついた。
「君はさ、もっと自分の体を大事にしなよ」
「えっ」
「こないだもそう。自分ならいいとか、簡単に言うもんじゃない。人間に優先順位なんて、本来ないんだから」