魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
もしかして、彼は例の「お姫様抱っこ事件」――学校ではそんな呼び名がまかり通っている――のことを言っているんだろうか。
「そ、それはそれです。今は蓮様が第一優先ですから!」
「僕が『主人』だから?」
「当たり前じゃないですか……!」
まさか、専属執事だと高らかに言ったことまで否定されている? さすがにそれは悲しい。というか虚しい。
蓮様は「あのね」と、諭すように口を動かす。
「主人とか執事とかの前に、君は女の子でしょ。女の子なら、大事にしないとだめ」
オンナノコ。――女の子?
彼の口から飛び出した単語がにわかに信じ難く、呆然と黙り込んでしまった。
五宮家に来てから「執事」としての自分が全てで、性別なんて気に留めていなかったように思う。スーツを着て、髪を短く切り揃えて。知らず知らずのうちに、中性的に振舞っていたのかもしれない。
「だから、庇って下さったんですか?」
やっぱり彼は御曹司なんだな、と少々的外れなことを思った。
威厳があって、女性を大切にして――きっと、将来素敵な人になるんだろう。社長として立派に働いて、綺麗な奥様と家庭を築いていく。
そう考えたら、蓮様は雲の上の人で、今こうしてお話しているのも奇跡みたいなものだ。
「……知らないよ」
「え?」