魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
ますます不服そうに口を尖らせた彼は、「もういいよ」と姿勢を戻した。
「死角に入るとかしなくていいから、目の届く範囲にいて。僕が呼んだらすぐに来て」
「は、はい! かしこまりました!」
背筋を伸ばして返事をする。蓮様は難しい顔をしたまま、私を見据えて――それで、彼の白い頬に、赤みが差した。
「…………あと、僕の犬なんだったら、僕以外に尻尾振らないで」
痛い。痛いくらい、胸の奥が狭くなる。
きらきらと、どきどきと、ふわふわと。さっきからずっと、水上で揺蕩っているみたいだ。
原因不明の動悸。でも誰のせいかは分かっている。
「返事は?」
あ、今度は百合って呼んでくれないんだ。そんな思考が顔を出して、咄嗟に首を振る。
「はい……かしこまりました……」
急かす彼に力なく答えてから、上がりきった体温を冷ますように、アイスティーを飲み干す。
その日の帰路。先程繋がれた手を思い出して、その真意は結局聞けないまま。空いた手に寂しい、なんて思ってしまって、また顔が熱くなるのが分かったから、それは夕陽のせいにした。