魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
怪しくはないと思うのだけれど。反論しようにも、ふにふにと片手で頬を潰されてしまってはどうしようもない。
「命令って言ったのに食い下がるとか……君、度胸あるね?」
蓮様の眼光が鋭くなった。あんなに燻っていた熱はどこへやら。これはまずい、と血の気が引いていく。
降参だ。私は執事で、彼は主人。ぎゅ、と目を瞑って、ひとまず服従の意思表明をする。
すると彼の手が外れて、ほっと一息ついた――のも束の間。目を開けようとした刹那、耳元で掠れた低音が囁く。
「……僕以外に尻尾振るなって、言ったのに」
「え――、わっ」
とん、と彼の頭が肩に乗る。僅か数秒の出来事に、熱くてどきどきして訳が分からなくて、パンクしそうだ。
「蓮様っ……!?」
「うるさい。疲れた。もう寝る」
「え、えっ、あの」
「ちょっと黙って」
今度こそ有無を言わせない「命令」が下されて、慌てて口を噤む。
蓮様はそのあと本当に寝息を立ててしまい――魔が差して貴重な寝顔を拝んでいるうちに、どうやら私も瞼が重くなってしまったようである。
同じ寝具で夜を明かしたと気が付き大慌てしたのは、翌朝のことだった。