魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
茜さんが含みを持たせるように呟き、にこりと口角を上げる。
「もしかして気を悪くさせてしまったかな。別に彼女をけなしたわけじゃないよ。妹にメイクしているのを見たんだけど、センスが良かったし、ちょっと話も合いそうだったから誘ってみただけ。ごめんね?」
「……僕に謝られても」
何だろう、この張り詰めた空気は。
口を挟めずにおろおろと二人の会話を見守っていると、茜さんは声色を明るくした。
「じゃ、時間ももったいないし、とりあえず準備しようか。ケイゴ、彼を案内して」
近くの男性に呼びかけた茜さんが、言い終わるや否や私に視線を落とす。
「君はこっち」
「えっ、あ、はい!」
背中をぐいぐいと押され、スタジオの方に連れて行かれる。後ろ髪を引かれる思いで蓮様を見やると、彼もまたこちらを見ていたようだった。
執事という立場上、同じ場所にいて別行動するというのはあまりないので、どうしても気になってしまうのだ。
「あーあ、チクったね。百合」
「えっ!?」
壁際で茜さんと並んで周囲を観察していると、突然そんなことを言われてしまった。
呼び慣れない名前にそわそわしてしまうけれど、彼には本名を名乗っている。蓮様の前で苗字を呼ばれるわけにもいかない。
「蓮くんに言ったわけだ。私、モデルやるんですよって」
「いえ、その……あくまで報告、といいますか……」