魔法をかけて、僕のシークレット・リリー


カメラマンやスタッフが横切っていく。

天気の話をするかのような軽やかさをもって、でもその内側には確実に重厚さを秘めている。茜さんの問いに、ゆっくりと息を吐き出した。


「……すみません。まだ、ちょっと」


判断を下すには、何もかもが尚早に思えた。どちらの選択が相応しいのかも、正直今の自分では見極めがつかない。


「まあ急かすつもりはないんだけど、……あんなに敵対視されるとちょっと揶揄いたくなっちゃうよね」

「はい?」

「何でもないよ。僕としては、もちろん前向きに考えてくれたら嬉しいって話」


はあ、だの何だの、曖昧な返事をして頷いておく。
茜さんはそこで一度会話を切り上げ、「来たよ」と私に目配せした。


「わぁ……」


廊下の奥から姿を現した蓮様は、真っ白のセットアップに身を包んでいた。
淡いピーチピンクのアイシャドウとリップだろうか。遠目から見る分には、さほど化粧っ気のない仕上がりである。全体的に色素の薄い彼にしたら、確かに血色感はいいな、といった具合だ。


「……天使みたい」


思わず独りごちると、茜さんが勢いよく噴き出した。


「な、何で笑うんですか!?」

「いや、よく素でそんなこと言えるなと思って」

< 195 / 350 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop