魔法をかけて、僕のシークレット・リリー


私が油を売っていたことにご立腹だったらしい。あれ、でも私に怒っているわけじゃないって仰ったのにな、と首を傾げる。
とくもかくにも、いつだって優先すべきは主人だ。


「申し訳ございません、その時は少々大切なお話をしておりまして……ですが、私はいつも蓮様のことしか考えておりません」


至って真剣に告げれば、彼の表情が幾分か和らぐ。それにほっとして、私は声色を整えた。


「そろそろメイクをいたしましょう。皆さんきっとお待ちでしょうし」


蓮様が小さく頷く。彼の顔を改めてまじまじと見つめ、さてどうしようか、と腕を組みつつ茜さんの言葉を脳内で思い起こす。

華がない。つまり、華やかさが足りない。一目見て、ぱっと惹きつけられるようなインパクトが――


「蓮様。目を閉じていただけますか?」

「え、ああ……」


元のメイクは落とさない。上から新たに色を重ねることにする。肌に負担がかかってしまうし、時間もかかるからだ。

アイシャドウは思い切ってバーガンディーを選択し、鮮やかに目元を彩る。ただし濃いので広範囲に広げず、目の周りを細く縁取る程度。チークはあえて何も足さずに、赤リップで顔のメリハリをもたせる。


「終わりましたよ」

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