魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
竹倉さんが目を伏せる。
「来月から聖蘭学園にご入学、と」
家を出る際、父とした約束は聖蘭学園に通うことだった。
そこは由緒正しい高等学校。世間一般ではお嬢様学校、だとか、そんな風に揶揄われている。
「聖蘭学園……!?」
草下さんが隣で声を上げた。続けざまに問うてくる。
「そんなお嬢様が何で執事に? しかも五宮家で働くって……」
「ち、違うんです!」
本来は絶対にやってはいけないけれど、履歴書には嘘ばっかり書いていた。もちろん名前もそうだし、住所だって、家族構成だって。
だけれど学校はここから通うことになるだろうし、誤魔化しがきかないだろうから、仕方なく聖蘭の文字を並べたのだ。
「娘ができたら聖蘭に通わせるっていうのが、両親の夢だったんです。だから、私はその夢を叶えたくて……」
大変不謹慎なことに、両親は既に亡くなったという設定。架空の人物を生きたままにしてしまうと、それはそれでややこしい。
それに、天涯孤独であるとなれば、五宮家に住み込みで働きたいという十分な理由付けになると思ったのだ。
「へえ……何か、色々大変だったんだな」