魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
気持ち悪い。普通じゃない。違う、そんなことを言わないで欲しいし、思わないで欲しい。悲しい記憶を思い出すきっかけに、なって欲しくはないのだ。
それすらも私の我儘なんだろうか。余計なお世話に、なってしまうんだろうか。
蓮様が僅かに口を開く。
と、その瞬間、メイクルームのドアを軽く叩く音が響いた。
「まだ時間かかりますか?」
「あ、すみません、いま行きます!」
慌てて外に向かって返事をし、彼と共に廊下へ出る。
スタジオに入った途端、視線がこちらへ集まり、息を呑む気配が伝わってきた。
蓮様はそのまま茜さんの元まで歩いていくと、目の前で立ち止まる。何か二人で話しているようだけれど、私はスタッフの人に呼び止められてしまったので、内容までは分からなかった。
撮影が始まる直前、壁際で待機していると、突然腕を引かれる。犯人は茜さんで、彼は私をカメラマンのすぐ近くまで引っ張ってきた。
「な、何ですか?」
「君はここで見学ね」
いや、何もこんな至近距離でなくともいいのでは?
そう思ったけれど、茜さんは私の背後で既に仕事モードである。口を挟むのも気が引けて、そのまま撮影が始まった。
「はい、じゃあよろしくお願いしまーす」