魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
彼の唇が動いたのを、いつまで経っても忘れられない。
あの時、蓮様は「ちゃんと見てて」と仰った。私は彼をずっと見ていたし、彼だって私を見ていた。あの瞬間は、私だけの蓮様だったはずで。
――と、そこまで考えたところで、慌てて頭を振る。
「はああ……」
「うわ、おっきいため息~。何、どうしたの?」
突然両手で顔を覆った私に、楓から訝しむような問いかけが飛んできた。彼女が「あ、分かった」と続けるので、ぎくりとして顔を上げてしまう。
「百合、テストの心配してるんでしょ。ほーんと、お花もお茶もダンスもできるのに、勉強だけは昔から大っ嫌いだもんね」
テスト、という単語に拍子抜けした。そういえば今月末だったか。ここのところばたばたしていたから、いま楓に言われて思い出したくらいだ。
私にとっては都合のいい勘違いをしてくれたようなので、そのまま適当に合わせておくことにする。
「ダンスといえば、もう来月ですわね。創立記念パーティー」
三園さんが食後の紅茶を嗜みながら、宙に視線を投げる。彼女の言葉に、どんよりと暗い気持ちになった。
聖蘭学園の創立記念日に、毎年行われている祝賀会。パーティーというだけあって、沢山の料理が並ぶのはもちろん、ダンスを楽しむのがお決まりだ。
そして更に付け加えるとすれば、私はこういった催し物の類いが嫌いである。
「そろそろドレスの準備しないと。パートナーも決めなきゃだし……」