魔法をかけて、僕のシークレット・リリー


あの時、自分を見つめていた冷たい瞳を、きっとこの先忘れることはないだろう。

これが現実。これが正しい。
悪いのは椿じゃない。椿が本心で言ったわけじゃないのは、分かっていた。あれは見下していたのではなくて、中途半端な僕に腹を立てていただけだ。

それなのに。躊躇なく椿の頬を叩いた彼女の気持ちを、嬉しいと思ってしまった。


『いいですか、蓮様。あなた自身があなたを貶めてはいけません。詰ってはいけません。どうかあなただけは、あなたを見捨てないで下さい』


ねえ、君は本当に僕の傍にいてくれるの。その手を、掴んでもいいの。
いつか手放さなければいけないのに、掴むことに意味はあるんだろうか。

でも、本当は、ずっと――永遠に魔法をかけ続けて、夢のまま僕を連れ去って欲しかった。


「お父様」

「何だ」

「……桜とは、結婚しなければいけませんか」


不確かな鼓動が、叫んでいる。
主人と執事じゃない、上下関係じゃない。対等な立場が欲しかった。命令で手に入れた気持ちなんて刹那的だ。でもこのままでいる限り、僕は命令でしか彼女に伝えられない。


「どういう意味だ?」

「僕と桜が結婚せずとも、五宮家が栄えていく道はあるのではないかという意味です」

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