魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
聞き慣れた声が飛んできて、我に返る。
椿はこちらまで歩いてくると、僕には目もくれず、笑みを深くした。
「どうしたの。俺がいるのに、他の人に目移りしちゃった?」
「いえ……! そうではなく……あの、」
「行こう。あっちの方が人が少なくて過ごしやすいよ」
ネイビーのタキシードをそつなく着こなした椿は、慣れた様子でエスコートをする。
彼はいつも笑っていたが、その瞳は常に死んでいた。他でもなく僕が、そうさせてしまった。
遠ざかっていく二つの背中をぼんやりと見つめる。
辺りは楽しそうな話し声と、色鮮やかなドレスで渋滞していた。パーティー、ダンス、聞こえはいいだろう。華やかな世界にいるはずなのに、どれをとってもくすんで見える。
壁に背中を預け、深く息を吐いた。
嫌だったら来なくていい。そう言って来ないのだから、嫌だった。それが彼女の答えだ。
本当はどこかで期待していた。諦めて背を向けるのはいつも自分の方だったから、彼女がこちらを見ずに歩いて行ってしまうのは想像できなくて。
自惚れていた。彼女が自分の元にいるのは、それが「義務」だから。たったそれだけのことだ。
「――蓮様!」