魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
あれから幾度も考えた。自分の夢のこともそうだけれど、五宮家のことも。
早く結論を出さなければと焦るのに、頭に浮かぶのはどうしたって、いま隣にいる人のことで。
他にやらなければいけないことも、考えなければいけないことも沢山あるのに。
だけれど、どうしても、私はこの場所を誰にも譲りたくないと思ってしまった。
こんなにもやもやとしたまま踏み出したって、きっと後悔するだけだ。
茜さんは「五宮家を出る必要はない」と言っていたけれど、仮に茜さんとお仕事をしていくのなら、そんな中途半端なことはできない。ゼロか百か。常にそうやって生きてきてしまったから、尚更。
「ごめんなさい!」
すう、と息を大きく吸って、お腹の底から謝罪した。思いのほか響き渡った自分の声に、少しだけ恥ずかしくなる。
「曖昧な返事をしてしまって、そのせいで今日こうしてわざわざ迎えに来ていただいてしまって……」
茜さんの目を見据え、できるだけ誠実な言葉で伝えようと心がける。うじうじ悩んで迷うのは、やっぱり性に合わないのだろう。
「茜さんがして下さったお話は本当に魅力的で……私にはもったいないくらい、素敵でした。きっと今まで見たこともない、経験したこともないわくわくが沢山あるんだろうなって、思います」