魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
嵐のような僅か数分の出来事に立ち尽くしていると、彼に呼びかけられる。我に返って返事をすれば、「早くお茶淹れて」と急かされた。
そこでようやく本来の目的を思い出し、準備を始める。
その間、いつもなら気にならない沈黙がやけに重く感じてしまい、私は咄嗟に彼に話しかけた。
「先程の方……桜様は、お知り合いですか? すごく綺麗な方でしたね」
知らず知らずのうちに、探りを入れるような口調になってしまう。
蓮様はさっきから俯いたままで、私の問いかけにも応じる気はないようだった。ますます不安になって、言葉を重ねる。
「そういえば、夏はこちらで過ごされると仰っていましたね。ご友人とご一緒でしたら、さぞ楽しい――」
「友人じゃない」
低い声が響いた。重々しい空気に、思わず肩が跳ねる。
蓮様はゆっくりと顔を上げ、こめかみを押さえながら息を吐いた。
「桜は、幼馴染」
「……左様でしたか! どうりで何だか仲睦まじいご様子だと思いました」
心臓が嫌な音を立てている。
まだ、まだ大丈夫。決定的な単語を彼の口から直接聞かない限りは、私は今まで通りいられるはず――
「婚約者、なんだ」