魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
社交辞令か本心か。どちらにせよ、彼女とは少なからず関わることになる。
そもそも契約期間はあと一か月半。仮に本契約を結ぶことになったとして、蓮様と桜様がご結婚されたら、私は二人の専属執事という位置づけになるんだろうか? そうでなくとも、二人が並ぶ姿を見続けることになるのには変わりない。
「……はい。ありがとうございます」
ああ、思ったよりもずっと、しんどいかもしれない、これは。
蓮様への気持ちに蓋をして、私は今きちんと笑えているだろうか。目の前の綺麗な女性に、汚い感情など抱きたくないのに。
私が必死に心の中で葛藤している最中、桜様が目を伏せ、静かに切り出した。
「ねえ。……椿は、元気?」
そちらもそちらで、久しぶりに聞いた名前である。
蓮様と桜様が幼馴染だというのは聞いたけれど、三人が顔見知りであるというのは、以前の会話から何となく分かってはいた。
蓮様はティーカップを置き、ゆっくりと椅子にもたれかかる。
「さあね」
「さあねって……」
「知りたいなら会いに行けばいいよ。どうせ連絡も取ってないんでしょ」
そう言い切った蓮様に、桜様は黙り込んでしまった。彼女は取り繕うように口角を上げて、首を傾げる。
「ちょっと気になっただけだから。元気なら、それでいい」