魔法をかけて、僕のシークレット・リリー


一瞬元気がないように見えたのは、気のせいだったんだろうか。
桜様はまた綺麗な笑みを浮かべて、ティーカップに口を付けた。


「あ、そうそう。私の友達がね、ホームパーティーするから蓮と一緒に来てって。来月なんだけど、行けそう?」

「ああ……うん」

「良かった。あとこれ、お土産」


桜様が蓮様に差し出したのは、手の平サイズの置き物だった。ぱっと見、エッフェル塔、だろうか。


「今回は何」

「それ、パンで出来たエッフェル塔なんだよ、可愛くない?」


可愛いかどうかはさておき、かなり独創的なデザインだ。
しかし蓮様は、耐えかねたように噴き出した。


「……はっ、相変わらず変なもの買ってくるよね、桜は」

「失礼ね。なんだかんだ言いつつ、蓮も椿も毎回ちゃっかり飾ってるでしょ。気に入ってるくせに」

「飾らないと桜の機嫌が悪くなるから」


温かな空気。弾む会話。どんどん取り残されていく。
敵わない、と、一瞬で分かった。蓮様がこんな風に親しく思い出を共有できるのは、桜様だけだ。
でもそれと同時に、何を張り合っているのだろうと目が覚める。敵う必要なんてない。それこそおこがましい話だ。


「桜様は、フランスに行かれていたのですね」

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