魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
それはあまりにもあっさりと、何事もなく。聞き間違えたのかと思うほど、単調に告げられた。
ああ、頭が真っ白って、こういうことか。なんて、呑気なことを考えている。
足が地面に埋められたみたいに、体が全く動かなかった。
「……それは……」
珍しく竹倉さんが言葉に詰まっている。たっぷり十秒は沈黙が続き、絞り出したかのような「かしこまりました」が彼の喉から漏れた。
その間、誰一人として口を挟んでいない。否、挟める空気ではない。
いつもの何十倍も重苦しい空気の中、朝食が終わり、片付けに入る。しかしそこで竹倉さんが歩み寄ってきて、私に促した。
「片付けは私たちでやります。佐藤、……荷物をまとめなさい」
彼もこんなことは言いたくないのだろう。だけれど、彼が言わなければ誰も言えない。
それは痛いほど分かっていたから、私は頷くことしかできなかった。
「なあ、やっぱおかしいだろ。蓮様がこいつをクビにする理由が分かんねぇよ」
先程から壁に背中を預けて思案顔だった森田さんが、誰に話しかけるわけでもなくぼやく。
竹倉さんが僅かに眉根を寄せ、眼鏡を押し上げた。
「……執事として未熟だったんでしょう」
「はあ? そんなん今更だろ。そもそも、お前がこいつを引き入れたんだろうが」