魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
剣呑な空気に戸惑っていると、草下さんが「そうですよ」と口を開く。
「蓮様が佐藤のこと切り捨てるわけがありません。それに、ここを出ることになったら佐藤はどうするんですか。身寄りがないって……」
彼の言葉に、ああそうだ、と自身の設定を思い出した。心配してくれているところ申し訳ないのだけれど、帰る家はある。猛烈に帰りたくないだけで。
「そ、それは大丈夫です。何とかなるので!」
「何とかなるって……」
場の空気を中和させるためにへらへらと笑っていたら、何だか本当にどうにかなるような気がしてきた。
ここを出る、という選択肢。今まで一度も頭に浮かばなかったわけじゃない。
何だかんだ私は、傷つきたくないのだなと思った。むしろ、このまま去ることができてほっとしている。
「あの、皆さん、本当に今までありがとうございました。未熟な私に沢山教えて下さって、優しくしていただいて……」
「佐藤さん……」
さっきから一番悲痛な表情を浮かべているのは木堀さんだった。彼女の労りが心に刺さる。
「皆さんのこと、絶対忘れません」
荷物整理してきます、と最後に深く頭を下げ、私は自室へと駆けた。