魔法をかけて、僕のシークレット・リリー


自分じゃこの気持ちに折り合いをつけることも、捨てることもできないだろうから。だからせめて、あなたの手で綺麗に傷つけて。

蓮様が目を見開いている。当然だ、私だって驚いている。
だって、笑っているつもりなのに涙が止まらない。


「蓮様」


蓮様。私はあなたへの恋を終わらせるけれど、それでもあの日、初めてあなたを見た時の衝撃は忘れられないと思うの。
雷に打たれた。記憶から消しても消しても、きっと私はあなたを見たら、また一目惚れしてしまう。


「今まで、大変お世話になりました。どうか、お元気で」

「……佐藤、」

「さようなら」


彼の横をすり抜ける。振り返らなかった。

玄関には竹倉さんと森田さんがいて、門の前に車をつけてあるからそれで帰るようにと言い渡された。


「――お嬢様!」


車から飛び出してきたのは、うちのメイドだ。そういうことか、と納得する。
花城家に連絡をして、迎えに来るよう手配してくれたのだろう。


「ああ、お元気そうで安心いたしました! さあ帰りましょう」

「……ええ。ごめんなさい、心配かけたわね」

「お嬢様がお元気なら、私はそれで良いのです!」


久方ぶりに聞いた声に、苦い笑いが漏れる。

車の窓から見た豪邸は、まるで夢の城のようだ。空っぽな気持ちでそれを眺めながら、私は半年間過ごした五宮家を後にした。

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