魔法をかけて、僕のシークレット・リリー

執事たちの憂鬱



窓の外で車が静かに発進していったのを見届け、隣にいる男に視線を移す。相変わらず無表情で何を考えているか分からないが、彼の纏う空気にどことなく憂いを感じた。


「そんなに後悔するくらいなら、お前が蓮様に楯突いてでもあいつを引き留めれば良かったんじゃねえの」


未だ外の様子を見つめ微動だにしない竹倉に、俺は八つ当たりのようなセリフを吐く。
こいつはそんなことをできないし、仮にできたとしても実行する男ではない。

佐藤、とここにいる全員から呼ばれていた一人の見習い執事。その本質は五宮家に転がり込んできた家無しの不憫な少女ではなく、花城家の一人娘だ。
俺がそれを知り得たのは偶然だったし、自分の他に彼女の正体を知る者もいなかった。

今ここにいる竹倉も、知らないはずだったのだ。それなのに、俺が花城家の遣いを呼んでも全く驚かなかった。


「蓮様が決めたことだ。こちらで勝手に判断するわけにはいかない」

「へーへー、そうかよ」

「元いた場所に戻っただけのことだ。親御さんも望んでいたからな」


――ああ、ビンゴか。まあ普通に考えて、竹倉がそこら辺をグレーにしておくわけがなかった。


「お前、最初から分かっててあいつを採ったのか」

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