魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
出張に出ていたということもあり、母と会うのは本当に久しぶりだ。
彼女は相変わらずスタイル抜群な美魔女である。艶やかな黒髪は簡易的にまとめてあるけれど、おくれ毛が色っぽい。
「……ご、ごめんなさい」
「とにかく入りなさい。話はそれから!」
大股で踵を返していった母は、やはり相当機嫌が悪いようだ。私に拒否権はないので、大人しくついていくことにする。
父は不在。母との一対一の勝負となれば、勝機はなかった。
「ねえ百合、どうしていきなり出て行ったの。みんなびっくりするでしょう」
私が座るや否や、母はそう切り出した。じ、と瞳を覗き込まれるように凝視されて、全身の筋肉が強張る。
「……五宮家で、働いてて……」
「ああ、そうね。聞いたわ。口からでまかせかと思って五宮家に一応連絡したら、本当にあなたがいるって言うから……申し訳ないけど、気が済むまで預かって欲しいってお願いしたのよ」
知らなかった。まさかそこが繋がっていたなんて。結局、手に入れた自由は鳥かごの中だったということか。
あの日の刹那的な自分の行動を、少しだけ悔いた。
「執事、ですってね。すぐに帰って来るんじゃないかと思ったけど、案外続いたじゃない?」