魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
母が言いつつ、私の格好を品定めするかのように視線を動かす。
私は一つ、気になっていることを聞いてみることにした。
「怒らないの? 髪、切ったのに……」
もっと言うとスーツ姿のままだし、まず最初に「その格好は何!」と注意されるかと思っていた。
しかし母は僅かに首を傾げ、分からない、とでも言いたげに肩を竦める。
「髪なんて今はどうでもいいでしょ。それより、まだ答えを聞いてないわ」
「答え?」
「どうして家出したのか。理由もなく出て行ったわけじゃないんでしょう?」
そもそも、私は両親が勝手に見繕った相手と結婚するのが嫌だった。自分の夢も叶えたかった。
じゃあ、それが解決したらいいのだろうか。自分で決めた相手、なおかつ私の夢を尊重してくれる相手を探して、結婚して――そうすれば、私は満足するんだろうか。
きっとその相手は、私にとって好きでも何でもないのに?
「……結婚、したくない」
究極的に絞り出した答えは、それだった。
母は小さく息を吐いて、諭すような口調で私に言い聞かせる。
「ねえ百合。あなたの行動力があるところはいいと思うのよ、私譲りだから。でも、人の話をちゃんと最後まで聞かなきゃ駄目」