魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
彼女はそう言って、鏡に手を伸ばす。鏡の中の自分をなぞるような仕草に、どこか憂いを感じた。
「魔法使い、ですか?」
声もそうだけれど、喋り方も独特な彼女。
私の問いかけに頷くと、「シンデレラの話は知ってる?」と質問を返した。
「はい、存じております」
「ドレスのないシンデレラは舞踏会に行けない。そこへ魔法使いが現れて、シンデレラをドレスアップするんだ」
彼女の長いまつ毛が伏せる。その奥に潜む瞳は、酷く寂しげだ。
「その魔法使い――まさに君じゃないか」
鏡越しに視線がぶつかった。どきりと心臓が跳ねて、呼吸を忘れる。
「お嬢様は……舞踏会へ、行かれるのですか?」
やっとの思いで口を開いた私に、彼女は「行かないよ」と鼻で笑った。
「僕は、シンデレラじゃないから」
「え……?」
こんなに可愛らしい女の子がこのお宅にいただなんて。今の今までぼんやりと夢見心地だったそんな思いは、一瞬で砕け散った。
どういうこと? 蓮様と葵様の他に、ご息女がいたということではなくて?
「あの、つかぬことをお聞きしますが、お嬢様のお名前は……」
震える声で問う。
鏡の中で私の目をひたりと捉えた彼は、残酷にもその事実を言い放った。
「――五宮蓮。この家の、長男」