魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
*
「初めまして。六角藤です」
差し出された手を取るのを忘れ、目の前の男性に見入る。
物腰柔らかに名乗った彼は、にっこりと微笑んで小首を傾げた。
しかし私は愛想笑いを返す余裕もない。なぜかと言えば――
『俺は六角家に仕える執事だ。……そう言えば、分かるか?』
数週間前、杏の別荘で出くわした不愛想な例の執事。彼が男性のすぐ後ろで控えている。もちろん、私を物凄く睨みながら。
「お嬢様っ、自己紹介を!」
背後から稲葉に耳打ちされ、慌ててしゃんと背筋を伸ばした。
「初めまして。花城百合と申します」
「なんとお呼びすれば?」
「お、……お好きに」
「では百合さん。本日はよろしくお願いします」
白い肌と黒髪のコントラストが眩しい彼は、今日初めて顔を合わせる私の婚約者に他ならない。
以前父から話をされた時に写真も用意してあったけれど、ろくに見ていなかったのだ。思いのほか若くて驚いてしまった。
ハンサムだなんだと言われていただけあり、彼は端正な顔立ちをしていた。
鼻が高く、意思の強そうな目。少し長めの毛先は緩くウェーブがかかっていて、洗練された印象だ。
「髪を切られたんですか? 以前写真を拝見した時は長かったですよね」
「初めまして。六角藤です」
差し出された手を取るのを忘れ、目の前の男性に見入る。
物腰柔らかに名乗った彼は、にっこりと微笑んで小首を傾げた。
しかし私は愛想笑いを返す余裕もない。なぜかと言えば――
『俺は六角家に仕える執事だ。……そう言えば、分かるか?』
数週間前、杏の別荘で出くわした不愛想な例の執事。彼が男性のすぐ後ろで控えている。もちろん、私を物凄く睨みながら。
「お嬢様っ、自己紹介を!」
背後から稲葉に耳打ちされ、慌ててしゃんと背筋を伸ばした。
「初めまして。花城百合と申します」
「なんとお呼びすれば?」
「お、……お好きに」
「では百合さん。本日はよろしくお願いします」
白い肌と黒髪のコントラストが眩しい彼は、今日初めて顔を合わせる私の婚約者に他ならない。
以前父から話をされた時に写真も用意してあったけれど、ろくに見ていなかったのだ。思いのほか若くて驚いてしまった。
ハンサムだなんだと言われていただけあり、彼は端正な顔立ちをしていた。
鼻が高く、意思の強そうな目。少し長めの毛先は緩くウェーブがかかっていて、洗練された印象だ。
「髪を切られたんですか? 以前写真を拝見した時は長かったですよね」