魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
呑気に彼の顔を観察していたら、突然そんなことを聞かれた。
ええ、と曖昧に頷き――いや待てよ、これは仕掛けてみるか? と一人拳を握る。
「あはは、そうなんですよー。もう邪魔くさくて! 適当に切っちゃいました!」
上品とはかけ離れた笑い方で切り出し、大声で言い切った。
藤さんは瞬間、目を見開いて固まる。
どうだ。こんな雑な令嬢は願い下げだろう。
本当は積極的に嫌われにいくつもりはなかったけれど、彼の執事には既に引くほど嫌われているし、「あんな人と結婚なんてしない方がいいです」とむしろ加担してくれるかもしれない。
好きになるかもしれないじゃない、と母は言ったものの、やっぱり気は進まなかった。
それに、いずれ私が大雑把でガサツなのはバレる。だとしたら、いま先手を打った方が相手にも親切だ。
「……切っちゃったんですか」
「はい! もうばっさりと!」
清々しいまでに宣言すれば、彼は何かを堪えるように唇を噛む。それから、ぶはっ、と御曹司らしからぬ音が目の前から聞こえた。
「ははっ……! あー、ばっさりと、ですか。なるほど」
苦しそうにお腹を捩って、白い歯を見せて。なぜか彼は笑い転げている。
それとは対照的に、彼の執事から禍々しい視線が飛んできた。藤さんさえいなければ暴言を吐かれかねない。
「ああ、すみません。とりあえず座りましょうか」