魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
目尻を拭いつつ、彼はそう促す。
今日は藤さんが花城家に赴き、サロンで軽く顔合わせを、ということになっていた。
稲葉が用意してくれたお茶を一口飲んで、深呼吸する。
「でも、安心しました。百合さんに逃げられて、もうそのまま破談になるかと思っていたので」
「その節はご迷惑をお掛けしました……」
それに関しては全面的に私の非なので、素直に陳謝する。
藤さんはにこやかに「いえいえ」と謙遜し、改めて挨拶を始めた。
六角藤、十九歳。医科大学に通っており、親御さんの病院を継ぐつもりらしい。
なるほど、確かに彼は将来有望な医者の卵である。私の両親が薦めてきたのも納得だ。
「聖蘭学園ですか。名前は聞いたことありますけど、実際に通ってる人と会うのは初めてですね」
彼のターンが終わり、私の自己紹介を軽く聞いた藤さんは、興味深そうに問うてくる。
「やっぱり校舎は広いんですか?」
「そうですね。建物はもちろん立派ですけど、中庭などもありますから」
「はは。生産性のない場所とか多そうですよね」
「え、」
突然の変化球に、若干戸惑ってしまった。
しかし声色は別段とげとげしくもないし、悪意も感じられない。深い意味はなかったのかな、と思い直し、会話を再開する。
「ええと……でも、中庭でお昼を食べるのも結構好きで」