魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
もしかして――この人、めちゃくちゃ割り切ってる?
さっきから何となく違和感というか、愛想はいいのにどこか冷めているような気がしていた。ようやくその正体が掴めてすっきりしたけれど。
「何ですか、その顔。俺と仲良くしたかったです?」
「い、いえ! 全く!」
「失礼ですねー」
一ミリも傷ついていなさそうなトーンで、藤さんはまた浅く笑った。
ちょっと意外ではある。もちろん政略結婚なのだから、当たり前といえば当たり前なのかもしれない。
でもここまで開放的にドライな関係を提示されるのも、なかなかに新鮮だった。
「もう普通に話していいですか? ていうか話す。あんたの在学中は猶予期間みたいなこと親が言ってたけど、その間いちいち会うのも面倒だから、口裏合わせよ。それでいいでしょ?」
「え、あの、」
「正直こんなことに時間割いてるのも馬鹿馬鹿しいんだよね。あんたもさー、家出だ何だってもうやめてよ。余計にめんどくさい」
「藤サン……?」
怒涛の勢いでまくし立てられ、口を挟む隙がなかった。
呆気に取られる私に、彼は最初と何ら変わりない笑みをたたえて立ち上がる。
「じゃ、今日はそういうことで。よろしく、百合さん」
詐欺だ。まごうことなき詐欺だ。
悠々と背を向けて遠ざかっていく婚約者に、げんなりとため息をついた。