魔法をかけて、僕のシークレット・リリー



「お嬢様。そんなに暗い顔をなさらないで下さい」


稲葉が私の髪を梳きながら指摘する。
彼女と鏡越しに目が合って、思わず口を尖らせた。


「そんなこと言ったって……」

「私は嬉しゅうございますよ。お嬢様をようやくこうして素敵に着飾らせていただけるんですもの」


てきぱきと準備を進める稲葉。私は既にコーラルピンクのドレスを着て、メイクも彼女の手によって終わっているところだ。

どうしてこんなにめかしこんでいるかというと、今日は六角病院の医院長――つまり藤さんの父親が主催するパーティーが行われるのである。
藤さんが参加するとなると、私も同伴しなければならないようで。致し方なく稲葉のお世話を受けていた。


「パーティーってだけでも嫌なのに、藤さんと一緒だなんて……」


ただ愛想笑いを浮かべているだけならまだしも、藤さんと仲睦まじく見えるように振舞わなければならない。
初めて彼と会った日以来、一度も顔を合わせていないのも懸念材料だ。何事もなく終わればいいのだけれど。


「……お嬢様。あの方とご結婚されるおつもりですか?」


気遣わし気な声で稲葉が尋ねてくる。
私は「さあね」と返して、投げやりに目を伏せた。


「結婚、するのかもしれないね」

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