魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
今度は私が顔をしかめる番である。
一体、この人は何を言っているのだろうか。桜様が何をしたというの。
「なぜです?」
「あなた、知らないんでしょう。教えて差し上げますわ」
彼女の口端が、歪に上がった。
「桜さんの顔には大きな傷がありますの。それを必死にお化粧で隠してらっしゃるのよ。みっともない」
みっともない。みっともない? みっともないって、何だ。
目の前の害悪な笑みに、吐き気がした。
「五宮様もどうしてこんな方と――」
「口を慎みなさい!」
相手が下劣な分、より一層自分の声が透き通っているように感じる。
唐突に言葉を遮った私に、相手はびくりと肩を揺らした。
「傷? それが何ですか。お化粧で身を綺麗にして何がいけないのです。あなた方だって、ご自身を美しく見せるためにおめかしするでしょう」
本来、そのためにお化粧をするはずなのに。自分は良くて、どうして桜様は駄目なのか。
「桜様はお美しいです。外傷はどんなに隠せたとしても、あなた方の心の醜さは、お化粧では誤魔化せませんよ」
「なっ、」
「桜様!」
慣れない靴で地面を懸命に蹴った。駆け寄って、傷ついた一人の少女の手を取って。そのまま、やや強引に桜様を連れ去る。
振り返らずに、私たちはひたすら走った。