魔法をかけて、僕のシークレット・リリー


会場の奥に小さな個室があり、そこはパウダールームの役割を担っているようだった。簡易的ではあるけれど、ブラシやスポンジ、ベースメイクコスメなども揃っている。


「ごめんなさい。気を遣わせてしまったわね」


呼吸を整えた後、桜様は苦笑して鏡の前の椅子に腰を下ろした。
今更ながらに自分の衝動的な言動を反省しつつ、彼女の傍に歩み寄る。


「いえ……それより、お洋服は汚れていませんか?」

「大丈夫よ。あの人たちは証拠の残るような悪戯はしないから」

「……左様ですか」


その口ぶりだと、このようなことをされたのは今日が初めてではなさそうだ。あの人たちの言葉も合わせて考えると、昔からの知り合いだろうか。


この(・・)傷、気になる?」


突然、核心を突くような質問が飛び出した。
彼女の手は、自身の顔の左半分を覆うように添えられている。それ以上の言葉はなくとも、彼女の傷がどれほど大きいのか分かってしまった。

返す言葉に迷う。
桜様は口元に微笑を浮かべたまま、目を伏せて静かに話し出した。


「初等部の頃、階段を踏み外して転んだの。私、昔からピアノを弾くことが好きだったから、手をついて骨折したり、弾けなくなったりしたらどうしようと思って。それで、」

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