魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
命令と位置付けるにしては、頼りない口調。懇願にも似たそれに、私は戸惑う。
「このこと、と言いますと……」
「僕が母親の部屋にいたこと。ドレスを着ていたこと。……ここまで言えば分かる?」
「は、はい! かしこまりました」
こくこくと何度も首を縦に振った。
そんな私の様子を鏡越しに確認すると、彼は納得したかのように目を伏せる。
メイクをすっかり落としきり周囲を軽く片付けていると、彼がおもむろに立ち上がった。そしてなんの前触れもなく自身の髪の毛を引っ張る。
「あ――」
綺麗なブロンドはウィッグだったようだ。顔を出した彼の地毛はシルバーグレー。重力に従って、さらりと真っ直ぐな毛先が揺れた。
不思議だ。今はメイクもしていないし、ウィッグもつけていない。正真正銘オトコノコなのに、底抜けの透明感が拭えない。綺麗な人だ、と先程と変わらない感想が浮かんだ。
「何?」
アンニュイな目が私を詰る。
あまりにもまじまじと見つめすぎてしまった。再び謝ろうとした刹那、彼は今度こそ有無を言わせぬ口調で告げる。
「着替えるから出て行ってくれない?」
「はい! 申し訳ございません!」
半ば叫ぶように返事をして、部屋から飛び出す。
やってしまった……。
初日に追い出されたらどうしよう、と全く笑えない心配が早くも脳内を埋め尽くした。