魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
父は昔から厳しくて、本当はあまり二人きりにもなりたくないというのが本音である。
しかも今回は事の重大さが違う。子供が分かった口をきくなと、怒鳴られてしまうかもしれない。
でも、それより。三人で穏やかに過ごしていくことの方が、僕にとっては大切だった。
「……いいよ、そんなことしなくても。蓮が言ったって、どうにもならないんだから」
「言ってみなきゃ分からない」
「分かるよ。だって、家のことは俺らじゃ決められないんだもん」
椿は頑なに拒否していた。桜にあんなことを言われたばかりで、ショックはもちろん受けていただろう。
この時の僕は、自分もいっぱいいっぱいで焦っていた。何を拗ねているんだと、首を横に振り続ける椿に思ってもいた。
「何で最初から諦めるの。ちゃんと話せば、お父様だって――」
「蓮は何も分かってない!!」
その場に、未だかつてない声量の怒号が響いた。
叫んだ椿の肩は上下していて、荒々しく息が漏れている。
「桜は蓮のことが好きなんだよ! お前が婚約解消なんて言ったら、桜はどう思う? 傷つくに決まってるだろ、そんなことも分かんないの」
「椿、違う」
「何なんだよ、今更……ずっと黙ってたくせに。俺に嫌われるのが怖いの?」