魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
ますます意味が分からなかった。僕じゃなくて、椿にすればいいのに。
けれど桜は、それから毎日僕の家に来て世話を焼くようになった。段々とそれが学校でも発現するようになり、周りから婚約のことをうるさく言われるようになって、落ち着かなかった。
「桜。もうこういうのやめて」
耐え切れなくなった僕は、その日もお茶の用意をする桜に、はっきり告げた。
「どうして?」
「桜がこんなことする必要ない」
「別にいいでしょ。私たち、結婚するんだから」
目を伏せて桜が言う。
彼女まで諦めてしまっていることに、苛立ちと歯痒さが色濃く残った。
「……椿のこと、好きなんでしょ」
「好きじゃないわ」
「好きなんだよね?」
重苦しい沈黙が、ゆっくりと侵食していく。桜の吐息が、小さく空気を揺らした。
「私は……私は、蓮と結婚するんだよ。蓮に喜んで欲しいの。私のこと、好きになって欲しくて、」
この期に及んでも、僕には桜の言いたいことが分からなかったから、本当に人でなしだと思う。
だって、と彼女は震える唇を懸命に動かしていた。
「結婚は、好きな人としたいから……私も、蓮も、お互い好きになったら問題ないでしょう?」