魔法をかけて、僕のシークレット・リリー


だから尽くすの? 本当は椿が好きなのに?


「私、こんなに頑張ってるのに……どうして、好きになってくれないの。蓮のために私、いつも」

「桜は僕のこと、好きじゃないくせに」


それなのに、僕の方だけどうして、好きにならなきゃいけないんだ。
僕に尽くして、優しくして、それは僕が好きだからじゃない。僕の気持ちを得て、安心したいからだ。これで間違ってないと、自分に言い聞かせたいからだ。

桜はずるい。そうやって柄にもなく健気なふりをして、僕が悪いみたいに言う。

どうして椿も桜も、僕のせいにするの。
僕はただ、二人と一緒にいたかった。二人の笑う顔を見ている時が、一番好きだった。


「好きになってって言って、なれるもんじゃないじゃん。桜は今ここで僕にそう言われて、好きになれるの?」


ましてや、椿のことがあるのに。
分かってるのかよ。気持ちを消化できない二人も苦しいだろうけど、僕だって板挟みになるのは同じくらい痛いんだ。もどかしくて手を伸ばしても、二人が取ってくれなきゃ意味がない。


「……もういいわ。この話はやめましょう」


桜が一方的に会話を切り上げる。
すっかり温度の下がった紅茶の水面が、静かに揺れていた。

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