魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
Lily12 きっと最初から、あなたが
至近距離で見ても、彼女は綺麗だ。そんな場違いなことを思う。
今しがた桜様が発した言葉を、にわかには信じられなかった。
「一年前、日本を発って……もう椿には会いに行かないって決めてた。それなのに、さっき顔を見たら全っ然だめ」
ゆっくりと目を伏せながら、桜様は嘆くように零す。
穏やかに、気丈に振舞う彼女はそこにいなかった。目の前の彼女は、今はただ一人の女の子として恋を憂いている。
「私、やっぱり……」
「桜様」
私の両肩に置かれた彼女の手。その上から自分のものを重ねて、微笑みかけた。
「笑って下さい。どんなに綺麗でも、そんなに悲しい顔をされていてはもったいないですよ」
一番大切な人が、教えてくれた。彼がかけてくれた魔法を忘れないように、私はずっと、何度でも繰り返す。
『そのまま笑ってなよ』
椿様からいつもほのかに香った、チェリーのコロン。
やっと分かった。彼はいつでも、「桜」を待ち焦がれていたのだと。
私は無理だったけれど、桜様にはどうか、自分の想いに正直でいて欲しい。
「さあ、桜様。行きますよ」
「え……? どこへ、」