魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
彼女の手を引いて再び駆けた。
間に合う。間に合わせる。二人の心の中に咲いた花を、枯らしたくない。
会場内をくまなく探したけれど、椿様の姿はなかった。
途中で私の意図に気が付いたのか、桜様が眉尻を下げて呟く。
「……もう帰ったのかしら」
そんなわけはない、と否定したいところではあった。しかし、その可能性も否定できない。
数秒思案して、一つ思い当たる場所が浮かんだ。
「桜様、こっちです」
私たちがつい先程までいた中庭。会場内にいないとなれば、そこが一番有力候補だ。入れ違ってしまったかもしれない。
呼吸を整えながら、彼女と二人で外に出る。
「あ……」
すらりと長い足。凛とした背中。静かな外の空気を一人浴びているのは、間違いない、椿様だ。
足音で気が付いたのか、彼が振り向く。
と、桜様の姿を目視した途端、椿様は踵を返した。
「待って!」
隣で、桜様が一歩踏み出す。
「待って、椿……そのままでもいいから、聞いて」
彼女の懇願に、椿様はこの場に留まることを選んだようだった。
立ち止まった背中を確認して、桜様は胸を撫で下ろしながら続ける。
「……ごめんね。椿はあの時、私にもう会わないつもりで空港まで来てくれたんだよね?」