魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
私と彼の間には随分と思案の熱量に差があるようで、藤さんは最初からずっと、気怠そうに話すだけだ。
私としては、もう少し詳しく決めておきたいのだけれど。大雑把すぎて一向に不安が拭えない。
そんな私の様子に気が付いたのか、藤さんは面倒そうにため息をついて述べた。
「別に、あんたは何もしなくていいから。周りに合わせて、俺のことサイテーとかなんとか言っとけば、あの過保護な親も婚約取り下げるでしょ」
「……藤さんは、どうなるんですか?」
彼は完璧だから、悪役を演じるのだってきっとそつなくやってのけるのだろう。
じゃあ、その後は? 彼の方は、一体――。
「それはあんたに関係ないでしょ。まあ心配には及ばないよ、どうせうちの親は俺が医者になればあとはどうでもいいからね」
「そうなんですか……」
「とにかく、これから忙しくなるんだからボロは出さないように頼むよ」
藤さんはそう言い渡すと、スマートフォンを操作し、電話を掛け始める。既に彼の方は事務的な作業として着々と準備を進めるようだった。
『百合さんを必ず、幸せにします』
あの言葉は嘘だけれど、ある意味正しい。藤さんは自ら憎まれ役を買って出る――そう言っているのだから。
見慣れない高さの背中を見つめ、私は静かに決意を固めるのだった。