魔法をかけて、僕のシークレット・リリー



人の噂も七十五日というけれど、七十五日間ほとぼりが冷めるまで待つにしては、なかなかに耐えかねる事案だった。


「五宮様と九井様が婚約を解消されたそうよ」

「それも、九井様が七重様に心移りされたとか」


その噂は瞬く間に学園中に広がり、そこから派生して根も葉もないことを言い出す人も現れてきた。
一番悪質で厄介なのが、これらの噂を囁く人たちは、本人の前では絶対に尻尾を出さないことである。それゆえに、得体のしれない不快感が漂っていた。

誰かが言っているから、自分が少しくらい加勢したところで大したことはない。内輪で会話の足しにするくらいの退屈しのぎ。
きっとその程度の認識なのだろう。だから特別、彼女たちが飛びぬけて悪いというわけではなかった。その時たまたま、私も虫の居所が悪かったのだ。


「正直、あんなに素敵な方が近くに二人もいたら、ふらつきたくなってしまうかもしれないわね」


休み時間の廊下。女子生徒が三名、歓談に勤しんでいた。
校内はもっぱらその話題だ。普段の自分なら、またか、と辟易しながら通り過ぎたことだろう。

しかしその時の私は、非常に苛々していた。ウェディングドレスのために、食事制限を課されていたからだ。

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