魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
目の前の彼女たちから悲鳴のような呼び声が上がり、私まで刹那、さっと血の気が引いた。
確かめるのが怖くて振り返れない。背中越しにハスキーボイスが響いた。
「楽しく話してたところ悪いけど、婚約解消したのは、桜のせいじゃないから」
こんなに近くで彼の存在を感じたのはいつぶりだろう。もうそれだけで、不覚にも泣きそうになってしまう。
俯いて必死に気持ちを落ち着かせていたら、彼の手が私の肩に乗ったから、驚いて反射的に振り返ってしまった。
「僕が、僕のことを大事にしてくれる人と一緒にいたかっただけ」
「蓮様――」
彼の瞳とぶつかった。
今はただ、触れられたところが熱いだけ。どうして、なんで。分からないことは山積みだけれど、呑気に考えている余裕はない。
もうこの場に用はないと言わんばかりに、彼はそのまま私の手を引いて歩き出した。
私は、また夢を見ているんだろうか。だとしたら、もう覚めないで欲しい。
「蓮様……! あの、手を……離していただけますか?」
中庭まで来て、ようやく彼が立ち止まる。
やはり触れ合っているのは心臓に悪い。恐る恐る申し出た私に、蓮様は更に手を強く握った。
「やだ」
「え、……な、」
「離したら君、逃げるでしょ。もう逃がしたくないから、やだ」