魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
その先にいたのは、私以上に息を切らして、苦しそうに肩で呼吸をする蓮様だった。こちらを見て驚いたように目を見開いた彼が、ちらりと私の背後に視線を移してから、一度だけ頷く。
「蓮様、どうして……? どうしてここに、」
「ごめん、説明は後で。走るよ」
「えっ!?」
左手を引かれ、慌てて足を動かす。
流れていく景色と、風を切る頬と、苦しい息と。足は痛いしドレスは辛くて大変だし、こんなに散々な運動は初めてだ。
だけれど、たった今、私たちだけの逃避行が、確かにここにあった。
教会を離れて、辺りは住宅街。途中ですれ違う人たちに、ぎょっとした顔で恐らく三度見くらいはされた。
それもそうだ。私はいかにも結婚式から抜け出してきた花嫁で、蓮様はネクタイこそ締めているものの、花婿というにはラフすぎる格好である。
ようやく足を止め、まず二人揃ってぜえはあと酸素を取り込んだ。少し咳き込んだり、ひゅう、と喉から情けない音が漏れたり。
苦しくて、でも、その苦しさを彼と共有しているのが嬉しい。
「は、……きっつ」
額にじんわりと汗を浮かべて、蓮様がぼやく。
「大丈夫?」
「だい、じょうぶじゃ、ない、です」
「ふはっ、だよね。ごめん」