魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
俯きがちになっていた私に、そんな声が掛かる。
「僕を綺麗って言ったのは誰。そのままでいいって教えてくれたのは誰。君でしょう?」
「蓮様……」
「化粧もドレスも後ろめたさしかなかったけど、そうじゃないって、君が教えてくれた。僕にも夢中になれるものがあるかもしれないって、初めて思えた」
だから、と彼が、自分の意思をぶつけてくる。
「悪いけど、君のためじゃないよ。これは僕の夢でもあるから。……でも、それは君が隣にいて、見てて欲しい」
これは紛れもない、濁りもない、彼の結論だ。
最初に出会ったあの日、儚く消え去ってしまいそうだったネイビーブルーの哀愁はもういない。どこまでも強く、透き通った生命の青。
「分かりました」
深く頷いて、彼の言葉を受け取る。その瞬間、私の心も決まっていた。
「私の夢は、自分のブランドを立ち上げることです。それは今も変わっていません。だけど、もう一つ」
あなたに出会ってから大きく動き出したこの船の行き先に、なんて名前を付けよう。私一人で描いたちっぽけな航海図じゃ、まだまだ向こう岸は見えそうにない。
「この手で、魔法をかけ続けることです」