魔法をかけて、僕のシークレット・リリー


既に動き出した背中が、笑いをこらえるように震えている。つられて笑ってしまったから、私もきっと大概だ。
だけれど彼は、私を魔法使いにしてくれたし、きっと、シンデレラにもしてくれた。


『じゃあ、新しいおとぎ話をつくりませんか』


姫と王子。そんな決まりきったおとぎ話にさようなら。
私はお淑やかで上品なお姫様にはなれないし、ガラスの靴は片方さえも落とせない。

これから始まるのは、おとぎ話でも何でもない、私たちの話。今度は誰も何も気にしない。その代わり、ハッピーエンドは保証できないけれど。
それでも、人生を分かち合っていくというのは、そういうことなんだと思う。


『僕に魔法をかけて』


魔法をかけてよ、百合。
早くも息苦しくなってきたらしい彼が、そんなことを言う。速く長く走ることができる魔法なんて私は持っていないけれど、ちちんぷいぷい、と投げやりに唱えれば、愛しい人の笑い声が青空に響き渡った。

< 349 / 350 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop