魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
何とか階段を下り切った頃には、息も絶え絶えだ。
食堂に辿り着いた私たちの姿を視界に入れた草下さんが、ぎょっとした顔で背筋を伸ばす。森田さんはその横で唇を噛み締めて目を逸らした。……あれは絶対に笑いをこらえている。
「葵様、到着です……!」
「まだ! まだ着いてないよ、そこまで運んで!」
椅子を指さす葵様に、ぜえはあと息を吐き出しながら「かしこまりました」と答えた時だった。
「葵」
ハスキーボイスが後方から飛んでくる。その声に反射的に固まってしまった私と、背中の上でビクリと震えた葵様。
つと顔を僅かに後ろへ向ければ、こちらを見下ろす蓮様がいた。
「それくらい自分で歩かないとだめ。いつまで甘えてるの」
「兄さま……」
「ちゃんと立って。歩けるでしょ」
特別厳しい口調ではない。それでも葵様にとって蓮様の言葉は絶対なのか、渋々といった様子で私の背中から降りていった。
ようやく重りがなくなり、数秒そのままの姿勢で俯く。そんな私の横を、蓮様がさっさと通り過ぎて行った。
立ち上がって壁際に並んだところで、草下さんが「大丈夫か?」と耳打ちしてくる。
「だ、大丈夫です。いい運動になりました……」