魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
気に入られていない? 草下さんが?
蓮様と接する機会はほとんどないどころか、食事の際に見かける程度だ。草下さんですら知らない蓮様の情報を、私が持ち合わせているはずもなく。
「そうでしたか……大変申し訳ないのですが、私も蓮様のことはよく存じ上げないので……」
「ああ。そうだよな、ごめん。ありがとう」
「お力になれず、すみません……」
私も私で、葵様には気に入っていただけていない気がする。むしろ葵様は草下さんに懐いているような。
意図せず二人ともどんよりとした空気になってしまった。
会話を切り上げるタイミングを失って視線をさ迷わせていると、草下さんが私の肩をぽんぽんと叩く。
「佐藤も頑張ってな、色々大変だろうけど」
「えっ、あ、」
「お前、根性あるから大丈夫だよ」
私の落ち込んでいた雰囲気を察してくれたんだろうか。柔和な笑顔に、随分と救われた気持ちになる。
「ありがとうございます! 私、草下さんのことすっごく頼りにして――」
いや、そう言ってしまうとプレッシャーになるかも。必死に脳内で代わりの言葉を探す。
「ええと、草下さんのこと尊敬してるので……! いつか草下さんのことサポートできるくらい、優秀な執事になりますね」
「ははっ、尊敬なんて初めて言われたわ。さんきゅ」
わしゃ、と彼の手が私の髪を掻き回す。
草下さんはそのまま背を向け、「おやすみ」とドアの向こうに消えた。