魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
*
葵様はきっと、誰かに甘えたいのだろう。
そう思ったのは、私が葵様を寝かしつけるようになってからだった。
「サトー、僕が寝るまでそこにいて」
「はい。いますよ」
ぎゅ、と私のスーツの裾を掴んで目を閉じた葵様の寝顔は、やはりどう見てもあどけない。両親の不在はさぞかし不安だろう。
寝息を立て始めた葵様をしばらく観察してから、私は静かに立ち上がった。
部屋を出て廊下を歩いていたところで、前方からやって来る人影に立ち止まる。――蓮様だ。
姿勢を正し、左手を胸に当て腰から頭を下げる。
彼が目の前を通り過ぎた瞬間、ふわりとシトラスの香りが舞った。
「あ……あの!」
咄嗟に声を上げた私に、蓮様が顔だけ振り返る。彼の顔立ちはあまりにも端正で、少々面食らってしまうものがあった。
「一つ、お聞きしたいことがあるのですが……」
「何?」
機嫌がいいとも悪いとも取れない、平坦な声色。
私はやや緊張しながらも、続きを述べた。
「蓮様のお好きなものって、何でしょう?」
この前、草下さんが知りたがっていたこと。
蓮様とお会いできるタイミングなんてそうそうない。当たって砕けろ、といった心持ちで質問を投げた。
「君、僕のこと馬鹿にしてるの?」
葵様はきっと、誰かに甘えたいのだろう。
そう思ったのは、私が葵様を寝かしつけるようになってからだった。
「サトー、僕が寝るまでそこにいて」
「はい。いますよ」
ぎゅ、と私のスーツの裾を掴んで目を閉じた葵様の寝顔は、やはりどう見てもあどけない。両親の不在はさぞかし不安だろう。
寝息を立て始めた葵様をしばらく観察してから、私は静かに立ち上がった。
部屋を出て廊下を歩いていたところで、前方からやって来る人影に立ち止まる。――蓮様だ。
姿勢を正し、左手を胸に当て腰から頭を下げる。
彼が目の前を通り過ぎた瞬間、ふわりとシトラスの香りが舞った。
「あ……あの!」
咄嗟に声を上げた私に、蓮様が顔だけ振り返る。彼の顔立ちはあまりにも端正で、少々面食らってしまうものがあった。
「一つ、お聞きしたいことがあるのですが……」
「何?」
機嫌がいいとも悪いとも取れない、平坦な声色。
私はやや緊張しながらも、続きを述べた。
「蓮様のお好きなものって、何でしょう?」
この前、草下さんが知りたがっていたこと。
蓮様とお会いできるタイミングなんてそうそうない。当たって砕けろ、といった心持ちで質問を投げた。
「君、僕のこと馬鹿にしてるの?」