魔法をかけて、僕のシークレット・リリー



葵様はきっと、誰かに甘えたいのだろう。
そう思ったのは、私が葵様を寝かしつけるようになってからだった。


「サトー、僕が寝るまでそこにいて」

「はい。いますよ」


ぎゅ、と私のスーツの裾を掴んで目を閉じた葵様の寝顔は、やはりどう見てもあどけない。両親の不在はさぞかし不安だろう。

寝息を立て始めた葵様をしばらく観察してから、私は静かに立ち上がった。

部屋を出て廊下を歩いていたところで、前方からやって来る人影に立ち止まる。――蓮様だ。
姿勢を正し、左手を胸に当て腰から頭を下げる。

彼が目の前を通り過ぎた瞬間、ふわりとシトラスの香りが舞った。


「あ……あの!」


咄嗟に声を上げた私に、蓮様が顔だけ振り返る。彼の顔立ちはあまりにも端正で、少々面食らってしまうものがあった。


「一つ、お聞きしたいことがあるのですが……」

「何?」


機嫌がいいとも悪いとも取れない、平坦な声色。
私はやや緊張しながらも、続きを述べた。


「蓮様のお好きなものって、何でしょう?」


この前、草下さんが知りたがっていたこと。
蓮様とお会いできるタイミングなんてそうそうない。当たって砕けろ、といった心持ちで質問を投げた。


「君、僕のこと馬鹿にしてるの?」

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