魔法をかけて、僕のシークレット・リリー


五宮家――それは、大手IT企業の社長のお宅。
うちもそこそこ立派な家だけれど、そこはメディアで取り上げられることもある大豪邸だ。

そんな五宮家は今、使用人を募集しているらしい。
住み込み可、食事つき。しかも試用期間後、場合によっては永久就職ができるとか。

お給料はもちろん申し分ないし、起業するまで時間もお金もかかる。こんな好条件、どれだけ願ってもなかなか降ってこない。
私は本気で家出を考えていたのだ。


「五宮家だって!? 何でまた……」


呆気に取られたように声を上げた父に、私は毅然と告げる。


「もし五宮家に認めてもらえたら、私もう帰ってこないから。結婚も諦めてよね」

「ちょっと百合、待ちなさい! こんなこと瑠璃(るり)が知ったらどうなるか――こら! 話はまだ終わってないぞ!」


言うだけ言って、くるりと背を向けた。

母はどうせ夏まで帰ってこない。父だって結局は私に甘いし、母には頭が上がらないし、発言力は弱いのだ。

抗議じみた父の叫び声を背後に聞きながら、階段を駆け上がって自分の部屋へひた走る。


「……ふふっ」


やっと自由だ。私はもう、自由に生きられるんだ!
胸中に広がったのは、不安よりも遥かに大きい期待。これからの未来に思いを馳せ、自然と笑みがこぼれた。

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