魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
そう言って視線を落とした蓮様に、私は「いけませんよ」と食い下がる。
「蓮様とご一緒に登校するようにと、仰せつかっておりますので……」
そうでなくとも、私は先日彼の専属執事になったばかりだ。主人を置いて先に行くだなんて、言語道断である。
『葵の執事、僕にちょうだい』
蓮様のその言葉に、葵様は一も二もなく頷いた。それにまた傷ついたけれど、蓮様が私を専属執事に、と仰ったことの方が意外だった。
とはいえ葵様とは違い、起床やお着替えのお手伝いなんてしないし、蓮様は何でもお一人で済ませてしまう。
以前彼が言った「執事はいらない」という言葉通り、専属になったからといって特別彼の側にいるという感覚はなかった。
「そう。まあいいよ、ちょうど読み終わったから」
行こうか、と立ち上がった蓮様に、慌てて返事をしてドアを開ける。
彼の鞄を持とうとすると、あっさり断られてしまった。
「蓮様はどうして私を専属執事にして下さったんですか?」
道中、気になったことを聞いてみた。
彼にどんな心境の変化があったのか興味があるし、単純に間がもたないからでもある。
しかし蓮様は私につと視線を移し、小首を傾げてみせた。
「さあね」