魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
そう伝えれば、彼はあからさまに嫌そうな顔をした――だけに留まらず、「やめてよ」と突っぱねる。
「学校でも執事でいるつもり? さすがに気分悪いんだけど」
「ですが、」
「じゃあこれは命令。せめて学校にいる時は放っておいて」
言うだけ言って足を進める彼に、私は追い縋った。
「では、学校にいる時以外は私を専属執事として認めて下さるということですね!?」
「声大きい。ていうか、言葉のあやなんだけど……」
もういいよ、と投げやりに会話を終わらせた蓮様が、階段を上り切る。
「帰りは教室までお迎えに上がります!」
「来なくていいから、校門前で待ってて」
「かしこまりました!」
下校の約束を取り付け、踵を返す。と、真後ろにいた人に顔からぶつかってしまった。
慌てて離れてから、視線を上げる。
「す、すみません……」
「ああ、いや、こちらこそ。大丈夫?」
柔らかい声を紡ぐ彼は、アッシュブラウンの髪も柔らかそうだった。
大丈夫です、と私が頷けば、納得したように階段を上がっていく。
その人が自分の脳内で印象に残ったのは、特別容姿に目が惹かれたからではない。
「おはよう、蓮」
「ああ。おはよう」
「あの子知り合い?」
「……さあ。見たことないけど」
彼が蓮様の肩を親しげに叩くのを、予鈴がなるまで呆然と眺めた。