魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
蓮様が大股で私の目の前に来たかと思えば、両頬を片手で掴まれる。突然のことに目を見開いていると、
「椿には言わないで。適当に僕に話合わせて」
耳元でハスキーボイスが囁く。
まともに喋れないので、無言で必死に頷いた。椿、というのは恐らく蓮様の隣にいる彼のことだろう。
「知り合いっていうか……今日の朝、学校行く途中にたまたま一緒になっただけ」
「そ、そうなんです! 私、本当に蓮様のことはよく知らなくて!」
楓がひとり蚊帳の外で申し訳ないけれど、構っている余裕はない。
蓮様に同調して全力で肯定しにかかる。
「ふうん……その割には二人、仲良さそうだね?」
訝しげに首を傾げる椿さんに、蓮様は私の腕を引いた。
「大したことないよ。じゃあちょっと僕ら、急ぐから」
「あ……えっ、蓮様!?」
終始唖然とする楓にジェスチャーで「ごめん」と伝え、私はひたすら蓮様の歩幅に合わせる。
彼が私を解放したのは、校舎が見えなくなった後のことだった。
「あの……先程の方はご友人ですか?」
息を整えながら彼の後ろを歩く。蓮様は前を向いたまま答えた。
「まあ、そんなところ」