魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
慌てて数歩追いかけてから、私は彼を呼び止めた。
僅かに振り返った蓮様は、「なに」と先を促す。
「この後は自室でお勉強ですか?」
「そうだけど」
「左様ですか! ええと、後ほどお茶をお持ちしても……?」
「好きにすれば」
再び背を向けた彼に「ありがとうございます!」と頭を下げた。
私も自分の部屋で着替えよう、と思った矢先、背後で玄関扉の開閉音がして振り返る。
学校帰りだろうか、スーツとは違う制服に身を包んだ草下さんと、恐らく幼稚園帰りの葵様の姿があった。
「お帰りなさいませ!」
「おー。佐藤か、お疲れ」
「葵様のお迎えですか?」
そうそう、と頷いた草下さんが、さっきから俯きっぱなしの葵様に視線を落とす。
「葵様。佐藤に言いたいことがあるんですよね?」
草下さんの陰に隠れるようにして立っていた葵様は、こくりと首を縦に振って一歩前に出てきた。
ぎゅ、と掴んだお洋服。しわしわになっているけれど、それだけ緊張しているのだろう。
「さ、サトー……」
「はい。何でしょう?」
「い、……いっぱいわがまま言って、ごめんなさい……」